ブライト・ストーン~青き守りの石~【カラー挿絵あり】
嘘のように体が軽い。
体中を巡る膨大なエネルギーが鬼の本能を揺り起こしていくのを、敬悟はひしひしと感じていた。
それは、逆らいがたいほどに強烈な、闘争本能だ。
支配せよ。
王者となれ。
強大な敵を屠れと、本能が命ずる。
これが、鬼の血を持つ者の性(サガ)であるなら、人の世を支配しようとした上総の行動も分かるような気がする。
――そうだ、支配してしまえばいい。
モゾリ。
どす黒い感情が、渦を巻き、鎌首をもたげる。
『邪魔者は全て消し去ってしまえ。
そうすれば、全ては思いのまま、茜を傷つける者など居なくなる』
「くそっ!」
何を考えているんだ俺は!
鬼の血に、その本能に翻弄されている自分にカツを入れて、敬悟は目前の敵を見据えた。
今倒すべきは、目の前にそびえ立つ、この巨大な鬼であるはずだ。
ヒュン。
鬼本体から飛び出してくる黒い刃を右に左に交わしながら、倒す方法を模索する。
この大鬼が、おそらく『肉体を持たない複数の精神体の塊』だろうという見当はつく。
人身よりはまだ戦いようがあるはずの鬼の姿に変化出来たのは良いが、力任せに殴りつけてみても、霧のよう感触がなく散ってしまってすぐ又元に戻ってしまう。
それでいて、その黒い霧の形作る鋭い刃は実体を持つらしく、敬悟の体を斬りつけていくのだ。
これでは攻撃を回避できる時間が延びただけで、実質、変化前と何も変わらない。
鬼に変化しているとはいえ、その力は無限ではないのだ。
このままでは、勝てない。
どうしたら倒せる?
逡巡する敬悟をあざ笑うかのように、大鬼が二つに分裂して敬悟の周りを高速でぐるぐると旋回し始めた。