ブライト・ストーン~青き守りの石~【カラー挿絵あり】
「茜、しっかりしろ!」
敬悟に抱き起こされた茜は、辛うじて目を開けた。
「ごめ……敬に……」
声帯も上手く機能せず、掠れた声が微かに吐き出される。
「もういい。何も言うな。……良くやったな」
そう言って、敬悟はいつもの優しい笑みを浮かべた。
大好きな笑顔。
いつも、いつも見守ってくれた、愛おしい人の笑顔。
ああ、私は、こんなにも――。
茜の瞳から、ポロリと涙の滴がこぼれ落ち、白い頬を濡らしていく。
「わた……し」
「うん?」
「敬に……好きだ……よ?」
茜の囁きに、敬悟は口の端を上げた。
「知ってるよ」
頬を伝う涙の滴に、
その愛しい唇に、敬悟はそっと口づけを落とす。
そして、庇うように、茜を抱きしめた。
とくん、とくん。
とくん、とくん。
優しく響く鼓動の音が、抱き合った互いの胸から胸へと溢れる想いを伝える。
迫り来る死は、不思議と怖くはない。
例えここで命が尽きようとも、共に居られることが嬉しかった。
ただ気がかりがあるとすれば、一人残される父のこと。
――お父さん。
穏やかな父の顔が、茜の胸を過ぎる。
お父さんなら、きっと分かってくれるよね?
明日香を、お母さんを愛したお父さんなら、きっと――。
戻れなくって、ごめんね。
親不孝してごめんなさい。
一際大きな岩盤が、まるでスローモーションのように、二人を目がけて落ちて来るのを、茜は敬悟の温もりに包まれながら、静かに見詰めた。