ブライト・ストーン~青き守りの石~【カラー挿絵あり】
「さあ、家に帰ろうか」
病院の駐車場で、車に乗るように促す衛の言葉に、『否』と、敬悟が首を振った。
「敬悟?」
衛は訝しげに、メガネの奥の瞳を瞬かせた。
「俺は、一緒には行けません……」
「敬にぃ!?」
思いがけない敬悟の言葉に、茜が驚きの声を上げる。
ジリジリと強い夏の日差しを照り返すアスファルトの地面に視線を落として、言葉を詰まらせた敬悟の表情は苦しげに歪んだ。
――もう、戻れない。
何も知らなかった頃には、戻れはしない。
『鬼』と言う生き物の本性に目覚めてしまった今、以前のように暮らしていける自信が敬悟には無かった。
大鬼との戦いの最中、心の奥底に鎌首をもたげた、どす黒い感情。
あれは、紛れもなく、敬悟の中に存在するものだ。
あの感情に負けて、もしかしたら、茜を傷つけてしまうかも知れない。
それは、恐怖以外の何物でもなかった。
『だから、俺はこの人達の側に居ない方がいい――』
それが、敬悟なりに出した答えだった。
「理由は、茜に聞いて下さい。今までお世話になりました」
「なっ? 何言ってるの、敬にぃ!」
深々と頭を下げた後、踵を返して一人で行こうとする敬悟の腕を衛が掴んだ。