空中ブランコ
悲しい公爵
「すごっ。瞬間移動って便利…」
肺から出た息が、辺りに白く散っては消える
たどり着いたのは、西洋の芸術的な建造物が立ち並び、人が行き交う通りの外れた場所にある大きな教会の裏
「貴方たちの中にも、移動の能力を持ってる方がいましたよね」
行き交う人々に見惚れてるメリーに問い掛ける
先日の戦いで、ドアを地から出現させた男のことを言っているのだろう
「いるけど能力はそれだけ。瞬間移動能力みたいだけど、いちいちドアを出現させなきゃいけないから強いバンパイア相手じゃ役に立たないですよ。」
案外サックリ仲間の手の内を見せるメリーに、疑問を持つ
「お兄さん、驚いてるね。」
背中を見せていたメリーが振り向き様に、艶やかな唇に三日月を描かせる。
パラパラと降り始めた雪に、両手を広げて空を見上げる
「いいの!あたしがお兄さんに連れ去られて生きてる時点で、規則を破ってますから」
メリーの隣に歩み寄る
「その規則とはなんです?」
広げていた手を下ろし、シルディと対人する
「ん?
簡単ですよ。聖職者の掟48、バンパイアならず敵に身を囚われた場合、我が仲間と組織の情報を守るべく自害を余儀なくせよ。
………あたしは完璧に破ってる」
下を向いて笑う
「堕ちはしないんですか?」
レースの仮面の下にある目が、密かに開かれる
「“堕ち”のこと、知ってるんですね。………見たことは、あるの?」
聖職者が持つトランプには強力な力がある為に、適合者でなければ飲み込まれてしまう
適合者の条件は未だ分かってはいないが、その身が悪に堕ちた時、聖職者の背に背いた時、トランプが自己発動して食らい尽くす
「(あたしが好きだったお姉さんもトランプに食われた…)」
「キャリア・プラント。
…………ご存知でしょう?」
「!!」