掌に収まる程、小さな物語

　大学生になった僕は、ある時ふっとこの事を思い出して彼女に話した。彼女はとても興味深そうな顔をして言った。
　「なんだか浄玻璃鏡(じょうはりのかがみ)みたいね。」
　「浄・・・何だって？」
　「地獄の閻魔様が善悪の見極めに使うものよ。その鏡には亡者の生前の一挙手一投足が映し出されて、他にもその人の行動が他人にどんな影響を及ぼしたかまで分かるんですって。」
　僕はその鏡の前に連れてこられた亡者の気持ちを想像してみた。今まで目を逸らしてきた一生分の罪を見せつけられる。押しつぶされそうな重さの罪を受け入れさせる事こそが、閻魔の与える罰なのかもしれない。
　「じゃああの鏡に映る物は僕の罪なのか。あの鏡に何も映らなくなれば、まっとうな人生を歩んでる事になるのかな。」
　「人間なんて生きてるだけで人知れず誰かを傷つけてるものよ。」