♀スクール・デイズ♂
「オマエ、こっち、来いよ」


つかまれたままの腕を、ぐいっと引かれて、私はそのまま立ち上がらされた。

「ちょっ……鏡……介」


有無を言わさず、店の奥の方の席へと連れてこられた。


さっき目にした、男子校生の集団だった。


「――女じゃん」


鏡介の連れだろうか、同じ茶色のブレザーを着ている。その中のひとりが言った。


「どうした? 鏡介。ナンパか?」


「いや、俺の、女」


「おー。まじか?」


「違っ、ちょっと、鏡……」


私が否定しようとすると、メガネの奥の鋭い眼光で、それを制した。


「……」


ダメだ、私。


鏡介には、勝てない――。

鏡介。


加賀屋鏡介とは、中学2年の頃に、初めてつきあった彼氏だ。


芳くんに話した、初キスの相手。


背が高く、成績もよく、インテリメガネで、しゅっとした身なりに魅かれた。

外見だけで好きになってしまった私は、彼の本質など知らずに、自分の方から好きですと告白してつきあうようになった。 


だけど、その実――。


強引で、横暴で、陰湿なヤツだった。


それでも、好きだった。


……鏡介の方からは、一度も“好きだ”とか“愛してる”なんて甘い言葉かけてもらったことはなかったけれど。


デートもメールも相手のペースで、私からの誘いにのってくれるのは、10回中2回くらいだったし。


逆に、テスト前とか当時所属していたテニス部の大会とかが近いのに、マクドナルドで新商品が出たからと言っては誘われたり、朝方4時に目が覚めて、何もやることなくて暇だから電話につきあえ、とか、自分勝手で。


人前でのキスも、当たり前だった。


それは、愛情からくるものではなく、ただ単にアイツの欲望の赴くままに……って感じだったんだ。


鏡介は、私のことなど、愛していない……。



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