思いだけでも伝えたい(短編)
ああ駄目だ。
「なあ」
「何?」
思考を遮るように樋口の掠れた声が聞こえた。
「今日日直手伝ってくれない?」
「へ?」
樋口が空いた席を指差した。
あそこは不登校の斎藤さんの席。
「あいつと日直なんだけど、いないから
俺学校に最後まで残ったら絶対部活行きたくなるし」
はあ、と樋口がまたペンを回す。
「うん。それならいいよ」
確かに、部活行きたいよね
わかるわかる。
樋口はニッと笑ってペン回しを続けた。
「僕も手伝うよー?」
“僕”なんて言うのは樋口の席の後ろのやつしかいない。
「いらん」
私が言う前に樋口がキッパリと言い捨てた。