放課後ハニー

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放課後の図書室というのは魅力的なものだと思う。
一日の最後の授業が終わってから
私はいつもここで勉強していく。

本も借りたりする。
通学中の電車の中の暇を潰すのには最適。

昨日から読んでいた文庫は今日の古文の授業中に読み終わってしまった。
返ってきたテストは平均点より少し下の点数だったけど、それ以上必要だとも思わない。
だから特に解説も聞かなかった。
公立学校の中途半端な『自主自律』の校風は楽でいい。

勉強道具を片付けて、新たに借りた文庫も一緒に鞄にしまう。
セーターのポケットから携帯の出して液晶を光らせると、
16時55分の文字がアニメーションに合わせて踊った。


図書室から出てすぐ左の階段を昇っていくと
私が壊した鍵のある屋上へ行ける。

オレンジがかった光が満たす階段に
吹奏楽部が奏でる管楽器の音の粒が上の音楽室から落ちてくる。
合奏じゃない、まばらな音。
4階に到達すると、一応人に見られないようにそそくさと駆け上がり
屋上へ通じる扉を開けた。

誰もいないか念の為見渡して、文庫だけ出し柵の傍に鞄を置く。

相変わらずサッカー部は元気に走り回っていて
それを背中で聞きながら、私は地面に足を投げ出して座った。


鮮やかな空と、夕闇にオレンジを浸した雲を仰ぐ。
地球環境がどうだとか言うけど
東京の空も案外捨てたもんじゃない。

そんなこと言ったら
澄んだ空気が漂う土地で育った人には笑われてしまうのだろうか。
なんて、現実逃避じみたことを考えながら、文庫の表紙をぱらりと捲った。

読書もひとつの現実逃避の方法だ。
日頃触れることのない世界に触れる手っ取り早い手段。
身体動かすのも嫌いじゃないけど
そこまでのバイタリティもアクティブさも私にはあまりない。


5時を告げるチャイムが鳴り響く。
そういえば昔はこれを、家に帰る合図としていたな。
鳴り終わると同時にさっきまで音の粒だった管楽器たちが
ひとつの波と化して流れてきた。
音楽教師の指揮の元、統制の取れた演奏が始まる。

あぁ、この曲知ってる。
確か…


「スタンド・バイ・ミーか。渋いねぇ」


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