放課後ハニー
目を落としていたページに影が出来て
はっきりとした声が聞こえた。
「何があっても傍にいて~って。知ってる?」
影の持ち主が誰か、なんて
考えるまでもなかった。
「なんでまた来るの…」
チャイムや演奏に紛れて扉が開く音がわからなかった。
来ることがわかったら、嫌味のひとつでも言えたかもしれないのに。
不機嫌面を拵えて見上げると、白衣姿の相模はお見通しと言わんばかりに微笑む。
「お仕事ばっかりじゃ疲れちゃうじゃない。薬品多いから物理室で煙草吸うのは怖いし」
もっともらしい事を言って、ポケットから煙草を出し
慣れた手つきで火を灯した。
吸い終わるまでこいつはここに居座るつもりらしい。
「それに、友響ちゃんもいると思ったしね」
「何よそれ。っていうかアレ、なんなの?どういうつもり?」
「アレ?」
「とぼけないでよテストに書いてあったメアド!」
「あぁ、アレ」
ひと呼吸置くようにふぅっと吐き出した煙が消えて
相模は顔を俯ける。
真面目に取り合わないつもりだろうか。
読みかけのページに栞を挟み、閉じたそれを地面に置いた。
「智香に答案覗かれてたらどうなってたと思うの!?迂闊過ぎ。そのくらい考えなさいよ!」
「あぁ、あれは俺もビビった。最近の子って普通に答案見せ合ったりするんだね」
「私だってビビったわ…見つけた時といい見られた時といい解答逆から配った時といい…」
小言を連ねるおばちゃんみたいな口ぶりで、ぶつぶつと文句を挙げていくと、
校庭向いていた相模の身体が私を向く。
「え、逆からだって気付いてたの?」
「当然でしょ。教師の癖って結構あるし」
「意外なくらい見てるよなぁ、生徒ってのは」
ククッと苦笑を零すのを下から見上げ、ハッとした。
肝心な文句、言い足りない。