放課後ハニー
するとその時、背後で扉が開く音がした。
身体に一瞬緊張が走り、呼吸が詰まる。
なんで私がこんな想いしなきゃいけないのよ…
絶対大丈夫。大丈夫だから…
迫る足音をカウントしながら息を吐いて、強張った筋肉をゆっくりと解き放っていった。
ジッポの音、火の音、煙草の先端を焦がす音。
私のすぐ左でその存在を主張する。
「今日は早いんだね」
いつもの白衣じゃなくジャケット姿で
相模はゆっくり紫煙を吐き出した。
「時間を決めてる訳じゃないの」
私はそっちを見ずに答える。
「あぁ、そうなの。今日は来ないんじゃないかってちょっとだけ思ったんだ」
「なんで」
「昨日意地悪しちゃったからね」
言いながらも悪びれる様子は全くない。
ほんといちいち苛立つ男だ。
「言ったでしょ。約束なの。あんたなんて関係ない」
いっそこいつも私にムカついてくれればいいのに。
そうすれば私も解放される。
色んな想いから、たったひとつに集中出来るのに。
「約束、ねぇ…」
昨日も告げたその言葉に、相模は含みのある言い方で繰り返した。
携帯灰皿の中で煙草の灰を落とし、それを再び口につけようとした所で止まるのを、
視界の端で見る。