放課後ハニー
「サッカー好きなの?」
「そんなでも」
「じゃあ何が好き?」
私はようやくまともに相模の顔を見た。
狡さが滲む嫌な笑い方。
見つめるのは悔しい気がして、再び左程興味もないボールの行方を追い掛ける。
「…ひとりの時間」
「うん」
「静かな場所、ミステリ小説、爬虫類、ストレートティーにビターチョコレート、それから―」
「おぉ、結構あるね。17、8の女の子から出てくる好きなものとは思えないけど」
風に舞う髪を押さえる振りをして横目で相模を見ると、苦笑いしているのがわかった。
ふん、いいじゃない別に。
好きなんだから。
「ひとりの時間ねぇ…もしかして俺邪魔?」
「もしかしなくても邪魔」
「ほんと変わってるなぁ。他の女の子と全然違う」
「あっそ」
「ほら、そういうとことか。『えぇ~?そんなことないですぅ~』とか絶対言わないもんね」
一瞬女の子みたいな口調で、相模は女の子がよくする小首を傾げ口元で手を握るあのポーズをして見せた。
「うわ気持ち悪っ」
「…友響ちゃん俺のこと嫌いでしょ」
…嫌い。
嫌いよ。
大嫌い。
「…何を今更」
だけど、その言葉は
直接言ったことだけはなかった。
大嫌いでいたかった。
少なくとも一週間前までは大嫌いだった。
相模とここで逢うようになるまでは。