放課後ハニー
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ようやく落ち着いてきた感情を撫でるように
肌寒い風が肌を伝い吹き抜けた。
その感覚にハッと顔を上げると、夜の闇がすっかり辺りを覆い
眼鏡を外しているせいでぼやけた半分の月が煌々と私を照らしている。
フェンスに向かった身体が、まるでその光に浄化されていくようで
荒く上下していた胸も次第に穏やかになっていった。
「友響ちゃん」
声のした方へ勢いよく顔を向けると、
しゃがみ込んだ相模の手がハンカチとストレートティーの缶を差し出した。
「…なんで……」
「俺、そんな状態の子残して帰れるほど鬼畜でもないんだ」
早く取れ、と手のそれらを軽く振り、相模は暗闇の中で微笑む。
私の視線はその手と相模の顔を行き来し、迷った挙句躊躇いがちに手を伸ばした。
「買いに行ってる間に帰っちゃったらどうしようって思ったよ」
そう言って曖昧に笑い、私の隣でフェンスに背を凭れながらプルトップを起こすと、
ふわりと甘そうなカフェオレの香りが漂ってくる。
お礼、言いそびれたじゃない…
でもそれを上手く言える自信もなく、
私は渡されたハンカチで涙を拭い、息をついてから缶を両手で包んだ。
すっかり冷えた手に、ちょっと痺れそうなくらいの温度が心地いい。
それと同時に改めて寒さを自覚し身震いすると
いつの間に脱いだのか、相模がジャケットまで差し出した。