放課後ハニー


「使いなよ。そんな短いスカートじゃ寒いでしょ」


何か裏があるんじゃないかと疑いたくなるような言動に思わず顔をしかめたくなったけど
表情筋が上手く動かず、諦めてまた受け取る。


「…ありがと」


よかった。
今度は言えた…

ありがたくジャケットを膝の上に掛けると、人肌の温かさが伝わって
少しでも逃さないよう、その上から膝を手で引き寄せた。
これだけでも泣きそうになるのが嫌になる。

鼻をすすって缶を開け、口をつけた。
泣き疲れた身体には恵みの水分。
何度か喉の奥に流し入れて深い息をつく。


「落ち着いた?」


いつもと違う、柔らかい声。
こういう状況で誰かがいるというのは落ち着かないのかと思っていたけど
そんなことは全くなかった。


「…ん」


小さく頷き月を見上げる。

冷たくも優しい光が全てを溶かしていってくれるようで
頭の中も胸の中も静かに凪いでいった。


「彼が…約束の相手?」


上を向けた首をゆっくりと下ろす。
そっと目を閉じ、深めに呼吸して

意を決して目を開けた。



「うん」
「彼氏?」
「…だったのよ」
「だった?」


横目に映る相模が首を傾げ、探るように私を伺う。


「…死んだの。去年の今頃、事故で…」


顔を見たらまた泣き出してしまいそうで
私の目は相変わらず、空を彷徨い続けた。


「1年の時同じクラスで、5月の始めには好きになってた。サッカー部で、エースで…
1年ですぐにレギュラー取って背番号は10番。
屋上からいつもこっそり見てたんだけど、それに気付かれたのがきっかけだった」




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