放課後ハニー
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7月始めの雲が多く蒸し暑い日だった。
セーラーの夏服の胸元を開けて、少しでも風通りをよくするような、そんな日。
入学して2ヶ月で立入禁止だった屋上の鍵を壊し、そこに出入するようになった。
都内の高台の高校なのに、そんなの馬鹿げてるなんて、短絡的な考えだけど
そこから見える空も、街並みも、校庭も、全てがお気に入りだった。
何より好きな人を誰にも気付かれることなく見ていられるのがいい。
あまり雨の降らない梅雨でよかったと、心底感謝した。
それが続くのだろうと思っていた。
だけど
屋上の扉は開かれた。
眼鏡を地面に置き本に目を落としていて、扉が開いたことにも気付かなかったけど
「あれ?」
眼鏡がなくてもわかる。
立入禁止のはずの屋上で目の前に現れたのは、紛れもなく私がここからずっと見ていた人で
あまりに唐突な事態に、私の手から開いていた本のページが滑り落ちた。
テスト前で部活禁止だったその日、彼もとっくに帰っているはずの時間。
だから5mの距離で交わった視線に、私の頭の中は『ありえない』を総動員して目の前の光景の処理に戸惑っていた。
「…橘?」
「市倉くん…?なんで…」
「あっ、ごめん。まさか今日も人がいると思わなくて…」
なんのことを言っているの…と一瞬考えかけてハッとする。
『今日も人がいると思わなくて』?
「もしかして知って…!」
「あ、大丈夫。先生に言ったりとかする気はないから」