放課後ハニー



くっきりした二重の目を細めて、彼はニカッと笑い、私の方へ近付いてきた。
ドキドキと打ち鳴らす心臓の音が聞こえやしないか不安になる。


「気になってたんだ。立入禁止のはずの屋上にたまに女の子がいるから。
もしかしたら幽霊かも!なんて思ったりしてさ。で、来てみたくなった訳。俺も高校の屋上って憧れでさー」


クラスでも挨拶程度しか会話を交わさないはずの彼。
いつも見ていた彼。
なのに今、私のすぐ横に腰を下ろして話をしている。


「どうやって入ったんだ?ここ」
「えと…先月鍵壊して…」
「壊した!?橘が!?」
「っ…そうだけど…」
「あはははっ!俺お前のこと優等生だと思ってたけどいいキャラしてたんだなー。
っつーか眼鏡ない方が可愛いわ。うん」


歯に衣着せぬ物言いと、臆することない賞賛を浴びせ、彼は屈託なく笑う。
私も呆気に取られて、気付けば一緒になって笑っていた。


「そういやさ、気になってたんだけど、橘の名前ってなんて読むんだ?」
「あぁ、うきょうって読むの。ちょっと読みにくいよね」
「へぇ~。あれでうきょう、って言うんだ。いい名前だね。響きっていうか音っていうか…」


褒められたのは名前なのに
何故だろう、凄く嬉しくなって赤くなった顔をしばらくからかわれてしまった。
想いは急速に募っていって、名前で呼び合うようになるまで、そう時間も掛からなかった。


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