放課後ハニー
「大人は狡いわ…」
「どうして?」
「もっと淡々と感情の処理が出来るんだもの」
「それは『大人』を買い被り過ぎだよ。みんなちゃんと沢山の段階を経て、ひとつの結論に辿り着く」
「…相模も?」
「俺は友響ちゃんが思う程大人じゃない。やってることは結構子供じみてるよ。
受け流すという手段を覚えるだけで、誤魔化すことばっかり上手くなる。そういう意味では狡いのかもしれないけど」
困っちゃうね。
そう呟いて、相模は笑う。
つられて私もようやく顔を綻ばせた。
それから特に何を話すでもなく、冷めてしまった缶を二人で傾け
飲み干した頃にどちらともなく腰を上げた。
「これ、ありがと」
眼鏡を掛けて視界がクリアになった途端、今更恥ずかしさが襲ってきて、
ぶっきらぼうにジャケットを返す。
「いえいえ。女の子は冷やしちゃ駄目だよ」
「あと、ハンカチは洗って返すから…」
「うわぁ…なんか青春っぽいね、こういうやりとり」
「馬鹿なこと言わないで!」
さっきまでの真剣さなんて欠片も感じさせないほど
相模はいつも通りおちゃらけて
また私の胸の中をざわつかせた。
やっぱり苛立つわ…
「もう7時回ってるし送ろうか?」
「ううん、いい」
「でも…」
「ひとりで帰りたいの」
校舎への扉を開けて、後ろで蛍光灯に照らされる相模に振り返る。
正直、今きっとひどい顔をしているから
願ってもない申し出であることは確かだけど
それでも今甘えてしまったら…
「そっか。わかった」
自制が効かなくなる気がしてならなかった。