放課後ハニー
「じゃあ…」
「その代わり、ひとつ条件」
そう言って相模は人指し指をピンと立て、別れを示した私の言葉を切り、
私は怪訝に眉をひそめる。
「…何?」
「帰ったらメールして」
「え…?」
「そっけなくてもなんでもいいから。それがひとりで帰す条件」
言いながら、いい?と念を押して首を傾げた。
こいつ、やっぱ色々狡い気がしてくる。
だけどそれが不思議な程に、嫌という感情を孕んでいない。
「わかった」
特に感情を含ませずに言い放ち、一足先に階段を降りた。
わざとそっけなくしてるのが自分でもわかる。
そうやって押さえ込んでいるのが
わかってしまって
どうしよう…
痛い…
あぁ、でも言っておかなきゃ。
後悔の要因はもう
残しておきたくない。
一つ目の階段の踊り場で足を止めて、
「相模!」
階段を降り掛けたそいつを呼び止めた。
「…ありがと!じゃあね!」
ぽかんと口を開けた相模を尻目に、私は滑り落ちるように階段を降りた。
何に対して?
あの相合傘を見つけてくれたから?
紅茶?ジャケット?ハンカチ?
それとも
泣いた私の傍に
ただじっといてくれたから?
…どうしよう
最近心臓を酷使し過ぎている気がする。
人の気配がない校舎で、自分の息遣いと鼓動と足音だけが聞こえる。
だけどそうでもしないと
誤魔化すことが出来なかった。
堕ちてしまう。このままじゃ。
だけど人は、そうやって忘れていくのだろうか。
代わりの誰かを次々と立てて
忘れていってしまうのだろうか。
私はそんなの嫌なのに。
…ねぇ。
どうしたらいい……?