放課後ハニー



「そりゃね、いつまでも捉われていたままというのがいいとは思わない。
周りや今日の彼みたいに焦れるのもわかる。でも、忘れるなんて無理でしょ。彼は確かに存在したんだから」
「じゃあどうすればいいの!?どうすればよかったの!?
私にはふたりで決めた約束を守り続けるくらいしか…っ…存在した証が残せないじゃない…!」


掴まれた肩の手を振り解こうともがいたけど
それを上回る力で
抱き締め、られた。



「そんなことない」


突然のことに呆気に取られ、金魚みたいに唇をぱくぱくさせて
声にならない声をあげる。
相模の横顔にぴったりとくっついた耳を目掛け
一気に血液が顔に上った。


「そんなこと、ないから」



再び同じことを耳元で告げると抱き締める力が増して
胸と胸の間で押し潰された両手が
相模の鼓動を伝えてくる。

まるで、早鐘。

私も、同様に。



「君が忘れないでいれば、それでいい。それで十分彼が存在した証になる」


…意味がわからないわ

なんで


「だってそうでしょ?彼がいたから君が好きになったものとか、
彼がいなかったら知らなかったもの、沢山あるでしょ?」



なんであんなに苛立ってしょうがなかった奴の胸で
私はこんなにもドキドキしていて


「彼がいたから今の友響ちゃんがいるんでしょ?」


こんなにも泣いていて



「だったら俺は、彼に感謝したい」


こんなにも嬉しくて



「だから、忘れない意志を持ってて欲しい」



こんなにも聞きたかった言葉を
聞いているんだろう…


< 75 / 90 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop