放課後ハニー
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屋上への扉を開けると、まだ4時だというのにその後ろ姿はあった。
オレンジ色には満たない薄ぼんやりとした光の中
白衣をその色に染め、髪をはちみつ色に溶かす。
図書室で本を返したりして時間を潰したのに
まるで早く来ることを読まれてたみたいだ。
ゆっくりと振り返ったその表情は笑っている。
「やあ、ハニー」
「はぁ!?」
ここに来て数秒で私の表情は歪み
いっそ踵を返してやろうかという気になりそうだ。
「なぁにがハニーよ!?ばっかじゃないの?」
「ほーら、また眉間に皺寄って」
「だぁから誰のせいよ!?」
声を荒げながら地面に鞄を置いて
手にしたふたつの缶の内、コーヒーのそれと
ブレザーのポケットから出したハンカチを憮然としたまま相模に差し出す。
「何?」
「ハンカチ返す」
「コーヒーは?」
「…紅茶買ったら当たったのよ」
わざわざ買ったなんて言ったら
悔しい想いをしそうな気がして咄嗟に言ってしまった。
馬鹿みたいな意地。
だけど相模は
「へぇ、意外に当たるのかな。ありがとう、頂くよ」
と微笑みながら、あっさりそれを受け取った。
なんだかお見通しのような気がして、結局癪でもある。