不器用な指先


ドキドキしたのは何も声だけではない。


男の人に髪を結んでもらうだなんて、緊張を通り越し恥ずかしい。


彼とて女の髪を結ぶのは初めてか、少し荒っぽいが――不器用な指先なりに優しくて気持ちよかった。


「終わった」


冷徹な終了宣言。

冷戦が終わった時のような気持ち――分かりもしないが、緊張が解けた私はイスから転がりそうなほどに体の力が抜けた。


はふぅ、と変な息を出して。とりあえずは頭がどんな状況になってんのかと。


「触るな、殺すぞ」


冷徹な殺害宣言。
死に神の鎌が喉元にあるような、汗がだらだら流れるほどの殺意を背中から感じた。


「あ、あの、ぅ。私の髪どんな状況かぐらい確かめたくって」


「触るな、見るな、確かめるな。今後、そんなことをする素振りがある場合はお前を自殺と見せかけ他殺する」


「あー、ベランダから突き落としながら、あたかも私は自殺したみたく証言するわけですねぇ」


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