わたしが本当に好きな人

4期待

中間考査が終わり、今日から日下野は夏休みに入る。
それにもかかわらず、わたしは学校に来ている。
別に部活に入っているわけでもない。

わたしが向かった先は音楽室。
音楽準備室から鍵を借り中へ入る。
そしてピアノ椅子に座り、誰もいない音楽室の中でピアノの鍵盤を端から端まで叩いてみる。
タラララララン、と綺麗な音が響いた。
「よかった、弾けなくなってはいない」
わたしの指はまだ鍵盤の感触を忘れていなかった。
わたしは将来保育士になりたいと思っている。
子供が大好きで、かといって幼稚園のお受験闘争という柵に巻き込まれたくないため、保育士を目指すことにした。
もう、中学のころから決めていた。
採用試験ではピアノを弾かなくてはいけないけど、高校受験のために小学から通っていたピアノ教室はやめてしまった。
試験まで時間があるとはいえ、ピアノはしばらく弾かないと腕が落ちるといわれる。
音楽の斉藤先生に相談してみると、吹奏楽部の練習がない時間に、音楽室を使わせてもらえることになった。
鍵盤の感触を確認したところで、次にわたしは指を慣らすために曲を弾き始めた。
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