わたしが本当に好きな人
パチパチパチ……
「えっ?」
一通り弾き終えると、背中から拍手が聞こえてきた。
「澤先生……」
振り返るとそこには先生が立っていた。
「それ、トルコ行進曲でしょ。すごく上手だね」
「ありがとうございます……」
わたしは激しくなる鼓動を抑えるようにしてうつむきながら答えた。
「音楽室に何か用だったんですか?」
ここに来たのは偶然だろう。
「斉藤先生から白井さんがピアノを弾くことを知って、聴きに来たんだ」
まさか……
「聴かせてもらえるかな?」
ドクン!
心臓が大きく跳ねる。
「ど、どうぞ……」
「ありがとう」
そういいながら先生は微笑む。
あのときと同じ顔だ、ケータイを貸してくれたあのときと……
だめだ、どうしようもなく好きになる。
わたしの斜め向かいに椅子を出して、先生は座る。
優しそうに私を覗き込む。
「何かリクエストあります?」
「お任せするよ」
いちばん困る。
「お任せ」と言われたって、それこそ何を弾けばいいのか。
「これにしよう」
少し迷って、わたしはカントリー調の曲を選んだ。
確かアメリカ民謡だったはず。
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