不可解な恋愛 【完】
あくる日、俺はその3万円を組織へと渡した。
杏奈への返金は、また今度まとまって金が返済された時にしようと思って。
やはり俺が最優先に考えるべきは、女じゃなくて、仕事。組織のことだ。
石田さんに3万円を突き出すと、彼は表情を少しも変えず「ご苦労様」とだけ言った。
その日も俺は杏奈の家の下まで行ったのだが、やっぱり電気は付いていなかった。
その次の日は、部屋の前まで行った。
ドアノブをがちゃがちゃやってみたけれど、ドアは当然の如く施錠されていた。
突然姿を見せなくなった夜蝶が心配で、何日も何日も、欠かすことなく俺は彼女のマンションへ向かったけれど
2週間経っても彼女の部屋に電気がつくことはなかった。
車内で、革のシートに体を預けて一服。
借金を苦に夜逃げとか?まさかな。
そういえば、と、スーツの胸ポケットから携帯電話を取り出す。
こんな素敵な文明の機器を持っていたじゃないか、俺たちは。
杏奈には、こうして家に来るといつも会えていたから、こんなものを使ってちまちまと連絡を取ったことは一度もなかった。
杏奈だって、俺に連絡してくることはなかった。奏音のことを気にしていたのだろうか。それとも単純に、暇やネタがなかったのだろうか。
機械を通してでも繋がっていたいと切なげな顔をした杏奈をふと思い出す。
やはり、少しくらいは連絡してやった方がよかったのか。
女の気持ちはよくわからない。