不可解な恋愛 【完】
『デートしようよ、神崎さん』
情事後、シングルベッドのふちに腰かけて、彼女は言った。
俺は、ベランダの窓の側で煙草を吸っていた。
煙が、細く、窓の外へ消えていく。
「どこ行きたいの?」
『観覧車のあるところ』
「観覧車?却下」
『どうしてー?』
「気持ち悪ぃだろ俺が観覧車乗ってるとこなんて。想像してみろよ」
『想像してみて可愛いから提案したんだよ?』
「…おちょくってんだろてめぇ」
『てめぇとか言わないで、怖いから』
杏奈はバタっとベッドに倒れこむと、気持よさそうにひとつ伸びをして言う。
『楽しみだなぁ、神崎さんと観覧車』
「もう決定かよ。勝手だなお前」
『お仕事ない日教えてね』
「ああ、わかった」
結局、情事以外は、何もかも杏奈のペースに巻き込まれている自分。
女に振り回される自分なんか、想像もできなかった。少し前までは。
だけどこうやって杏奈に押されている自分が、別に嫌いじゃないあたり
恋愛って怖いな、と思ったのだった。