不可解な恋愛 【完】
『神崎さんシャツが白い!いつもの柄ものじゃない!』
「しかも今日アルマーニだよ、スーツ」
『え!さすがー』
「デートだからな」
自分で言って、自分で失笑。
そんな俺にお構いなしで、杏奈は嬉しそうに笑っている。
彼女の右の手に光るリングが、俺の気分を良くさせた。
仕事を辞めた今、杏奈はもうどの男の手にも触れられることのない、俺だけのものになったのだから。
とはいえ、俺は杏奈だけのものではない。どうにかしなければいけないことは、わかっているのだけれど。
『神崎さんはいつも、どんなところでデートするの?』
「家」
『他は?』
「しないよ、わざわざ外でデートなんか。家かホテル」
『そうなの。じゃあ私、特別なのね』
「まぁそうなるけど、」
えらく自信満々に、杏奈は微笑んだ。
いいスーツに身を包んで、ゆっくりと運ばれてくるコース料理とワインに舌鼓を打っていると、自分の職業は一体なんだっただろうか、という感覚に陥る。
まさか組織で犯罪に手を染めているなんてね、今の俺を見て誰が思うんだろうか。
小さな秘密を抱えているようなそんな気持ちと、デートという慣れない雰囲気も相まってますます気分が良くなる俺に、やっぱり杏奈は嬉しそうだった。