不可解な恋愛 【完】
「無理だね」
『なにが?』
「俺、彼女いるから」
『あ、そうなんだ』
ブリュレを頬張りながら、ひとつ、目だけで笑う彼女。
あっけらかんとした返答に逆にこっちが怯んだ。
なんか、堂々と宣言した俺が馬鹿みたいだ。
さっきよりも強く、煙草を捻り潰す。
目の前の女が怖い。人間として、女として。
何を考えているのかこんなにも掴めない奴も珍しいからだ。
もしこいつが俺の標的に選ばれたとしたら、俺はこいつを殺れないかもしれない。
ふと、そんなことを思う。
『それでもいいの。』
「はぁ?」
『好きになっちゃったんだもん。ひとめぼれ。仕方ないでしょう?』
「……、勝手にしろ」
『わーい。嬉しい、』
全てが突然だ、この女。
杏奈はブリュレを食べ終わると、太陽を見上げて
ひとつ、咳をした。