不可解な恋愛 【完】
『神崎さん』
「ん?なに」
『…夜景がきれいだね』
「ああ、そうだな」
東京の夜景を360度展望できるというのが売り文句のレストランだけあって、夜景がひどく美しかった。
その景色の中で、ぽっかり浮かぶ黒に目がとまる。東京湾。
俺は、あの海が嫌いだ。
人を殺したことがない、と言えば嘘になる。
石田さんに頼まれればどんな仕事だって全うすると、この組織に入った時に決めた。
だから彼から言いつけられた仕事が「殺人」であったときは、それを正しく遂行するだけだ。
そうして闇に送った人間が今まで何人いただろうか。
俺はその多くを、あの黒に沈めた。この手で。
組織の中で自分の地位が上がるにつれて、人を殺すことは少なくなった。
人を殺すのなんて、組織内の捨て駒がすることだ。
足がついて、警察なんかに捕まってしまえば終わりなのだから。
借金を取り立てたり、他の組の動向を追うだけの地味な仕事が増えたけれど
それも組織内での自分の価値が高くなった結果だと俺は嬉しかった。