不可解な恋愛 【完】
『…まだてっぺんじゃないのにっ、』
「俺はしたいときにするのが好き」
『もー…。てっぺんがよかった!』
「てっぺんでもし俺がキスしたくなったら、またしてやるよ」
『俺様ー』
杏奈は白い頬を紅潮させて、嬉しそうにそう言った。
真っ暗な箱の中。いいかもね、こういうのも。
だんだんと顔を覗かせてきた東京の夜景。
レストランとはまた違う景色に、杏奈は感嘆のため息を漏らしていた。
『私ねぇ、神崎さん』
「うん、」
『みなしごなのー』
「はぁ?」
『だから…身寄りがないの』
「…そうなんだ」
『うん。今までずーっとひとりで過ごしてきたからさ、』
夜景に向けていた視線を俺に戻して、杏奈は言った。
その目はやっぱり澄んでいた。