不可解な恋愛 【完】
Episode 3
奇妙な会合から数週間が経過して、俺はあの女のことなんかもうすっかり忘れていた。
そんな夜、事務所に到着すると、ピンと張りつめた空気が俺を出迎えた。
組長の石田さんを囲んで、諸先輩方が何やら会議をしているようだ。
ま、俺にはあんまり関係ないだろう。
石田さんは俺よりも少しだけ年上で、若くして組長になった人間だ。
黒髪に眼鏡、整った顔立ちに白い肌。自分のことを「僕」と呼ぶ。
一見穏やかそうだが、標的には鋭い裁きを何のためらいもなく与える、冷徹な人だ。
俺をこの組織に拾ってくれたのは石田さんで、俺は彼を尊敬している。
俺は彼を絶対に裏切らないし、彼には絶対服従だ。
「神崎」
「え?あ、はい」
「ちょっと、」
「はい、」
少し離れた場所にあるソファーにどかっと腰かけていたのだが、その俺の体は石田さんの一声によって立ち上げられる。
デスクの前に立つと石田さんは、俺に一枚の紙を差し出した。
「この店を知ってるな」
「ああ、こないだの」
紙にプリントされていたのは、この前、上司に連れていかれたあの高級クラブ。
一瞬にして、忘れていた顔が脳裏に浮かぶ。
杏奈。