不可解な恋愛 【完】
「こちらです」
通された病室に、杏奈の姿はなかった。
代わりにベッドには小さな箱が置かれていて、ああ、とひとつ声を発した。
こんなに小さくなってしまったのか。
俺が知らないうちに、知らない場所で、生きて、死んで。
嘘だと思っていた現実が、途端に色濃くなってゆく。
杏奈はひとりで、ここで何を思って過ごしていたのだろう。
杏奈は最期に、何を考えていたのだろう。何を見たのだろう。
一瞬でも、俺を思い出してくれたかな。
「ご存じだったかもしれませんが、白石さんは、肺に病気を抱えていたんです」
「…いえ、知りませんでした、」
「そうですか。手術に多額の費用がかかるということで、仕事を頑張っていたようですが、それが逆に仇になったようで…」
医者によると、杏奈はずっと肺に病を持っていたらしい。
そういえば最初に外で会ったとき、咳をしている彼女を見て、風邪でもひいているのかと少し思った覚えがあった。
それに杏奈は、よく笑いながら咳きこんでいた。
身体が細かったのも、病気のせいで太れなかったからだと言う。