不可解な恋愛 【完】
不治の病と呼べる病気ではなかったが、とても難しい病気で、手術には多額の金が必要だったらしい。
その金を稼ぐために杏奈は高級クラブばかりを選んで仕事をしていた。そのことは医者も知らなかったという。
一生懸命貯めた、杏奈いわく「安いメルセデス1台分」の金。それだけでは、手術費には至らなかった。
だがその金を杏奈は借金返済に充てることになってしまった。例の300万円だ。
自分の命のために、杏奈は自分の命を削ってまた働いた。本当に、後先考えない馬鹿な女だと思う。
そして働きすぎて過労で倒れたあのとき、自分の病状が悪化していて、もう手術をしてもどうにもならないことを知ったという。
杏奈が、自分が死んだら俺に連絡してくれと、この医者に携帯を渡したらしい。
置き手紙に書いてあった「ほ」のつく場所とは「ホスピス」のことだった。
手術費に、とキャバクラで働いて貯め直していた金を全部使って、杏奈はここへ入院したそうだ。
俺と「デート」をしたあの日も杏奈は、自分の最期が近いことを知っていたのだ。