不可解な恋愛 【完】
「探したわよ」
突然、背後から声がした。
振り向くと、奏音がそこに立っていた。
もう一度首を海に向け直す。彼女の履いているヒールの音が近づいて、俺の横で止まった。
好きだとか、嫌いだとか、愛だとか、恋だとか
そういうことを、する気に今はなれないのだ。
自分勝手なのはわかっているけど。
「何があったの、龍」
「別に」
「彼女が死んじゃった?」
「…なんで」
「昔、同僚が死んだときも、龍ここでずっと仕事さぼってた」
「ああ。あったな、そんなこと…」
奏音は自分も煙草を取り出すと、ゆっくりとそれを吸って、空へ吐き出した。
隣に誰かが居たって、空虚感が俺を支配する。
きっと杏奈の穴は、誰にも埋められないのだ。