不可解な恋愛 【完】
「俺が買ってやろうか」
『えー?何を?』
「ブランドもの」
『いいよぉ、そんな。神崎さんからは、いらない』
「なにそれ」
こいつには毎度毎度、出鼻を挫かれると言うか、何と言うか。
俯いて、グラスの中で氷をカランカラン言わせる俺に、彼女は『かわいい、』と笑った。
思えば俺は、奏音にも何かをプレゼントしたことがない。
「ここのマスターってどんな奴なの?」
『どうしてそんなこと聞くの?』
飛鳥の言葉に、また焦って
地雷を踏みそうになった俺を上司が睨む。
上手くやれよ、俺、ほんとに。
「1回も見たことねぇからさ。ママとか呼ばれてる、そっち系?」
『んーん。男の人だよ。すごく優しくて、一緒に働きやすい人』
「あ、そうなんだ」
『ちょっと気が弱い人でね、でも楽しいのよ』
マスターの姿を思い出したのか、クスクス笑う飛鳥。
こっちは、ここのマスターが中年の男であることも全部知っていたが。
残念だな。その優しいマスターに、裏切られる日が刻一刻と迫っているなんて。
気が弱いから付け込まれんだよ、やくざに。