不可解な恋愛 【完】
夜の世界に身を埋めて、もう何年経っただろうか。
かっこよく言えば「自由業」、俺はただのやくざだ。
黄金色に輝く天井や壁。
薄暗く灯された照明。
どうしてこんなとこ来てんだろ、とか思いながらも、たまには悪くないかも、と内心にやついてる俺。
六本木の高級クラブ。
会員制の、結構お硬いとこ。
俺は間違っても会員ではないが、上司が常連らしく、連れて来られたのだ。
指名だとか何だとか、俺にはわからないけれど、なんかいろいろルールがあるらしい。
慣れた口振りで女の子を「注文」した上司と、付き添いの俺は、当たり前のように奥のVIPルールへ通された。
「まあ何事も経験だ、神崎。」
「そーっすね。」
「楽しめよ、今日ぐらい。」
「ありがとうございます。」
「あのうるさい女に殺されねぇか怯えながら過ごしてんだろ?」
「ハハッ、あいつは俺を殺れませんよ。」
「そうか。お前相当惚れ込まれてるらしいもんな。」
うるさい女とは、奏音(かのん)という、俺の女。
俺の組と同盟を組んでいる椿組の女頭。
2年前、ふたりでデカい仕事をしたのがきっかけで、気付いたら恋人だった。
好きとか、愛してるとか、俺の女になってくれとか、言った覚えはないんだけど、気付いたら恋人だった。
奏音はいつもキラキラしている。
なんて言ったらいいの?グラマラス?
一言で言えば、まあそんな感じ。
相当惚れこまれているという噂があるとは、たった今聞いたばかりだが
自分でも、相当惚れこまれていると自負している。
そして、俺もあいつに相当惚れこんでいるんだけど。
それはあんまり同僚や上司には知られたくないところだな。