不可解な恋愛 【完】



『お金がいるの』


「え?」


『どうしても、大金が必要なの、私』


「なんでだよ」


『秘密』


「…それ、デートしたら教えてくれんの?」


『どうしよっかなー』







彼女は子供のように笑うと、灰皿を遠くへ置いた。

彼女の笑顔を見て思う。

やっぱり、自分がわからない。




こいつを放っておけないと思っていたのは、使命感だったはずなのに

一緒の時間を重ねるごとに、芽生えそうになる、違う感情。

この仕事が片付いたら、もう会えなくなるかもしれないと自覚し始めたころから感じ始めた

胸を引っ掻くような、鋭い苦しさ。

なんなんだ、一体。




お互いしらないことだらけ。

だから。






「じゃあ、1回ぐらいなら、付き合ってやってもいーよ」






俺は、彼女に惹かれているんだろうか。

……否定できないな。






『それ聞いたの、2回目』






柔らかく微笑む彼女に、自然と零れた自分の笑みも、否定できない。

でも、奏音を愛している自分も否定しない。




俺の首元に当たる彼女の髪を指ですくと、彼女は自分の細い指を俺の指に絡めてきた。

上目づかいで俺を見つめてきた杏奈。ばちりと合う視線。

目を奪われるとは、きっとこういうことだ。

透き通るような彼女の瞳の色に、咄嗟に指を解くことも忘れて、見入ってしまった。
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