不可解な恋愛 【完】
開店前の店に、一人で向かう。上司は別件で海外に飛んでいた。
もちろん頑丈に鍵のかけてある店のドアを、力任せにどんどんと叩くと
店の中から、本当に気の弱そうな中年の男が登場した。
「…どちら様、でしょう?」
「ここの常連。ちょっと話あるから、入るよ」
「ちょっ…!」
勝手に上がり込む俺に、何も言えないあたりがやっぱり気弱だ。
俺は、店内のソファーに適当に腰掛ける。
たじろいでいるマスターをその向かいに、手招きで誘導すると、彼はおずおずとそこに腰かけた。
「借金あんだろ、あんた」
「…どうしてそれを、」
「全部調べ上げてんだよ。あんたが蜷川組から金借りてることも、ここのホステス売ろうとしてることも」
「あ…、それは、」
「俺は石田組の神崎だ。ここが俺らの組の敷地だって、あんた知ってて蜷川んとこから金借りたの?」
「違います!知りません、そんなこと!蜷川組の、若い…確か新藤という男から、話を持ちかけられて…」
流れる冷や汗を、濃紺のハンカチで拭うマスター。
いきなりやくざにけしかけられて、寿命、一体何年ぐらい縮んだだろーね?