不可解な恋愛 【完】
Episode 5
経営者と接触してから、数週間。
「しっかし逃げ足の速い野郎っすね」
事務所のソファーに腰掛けてコーヒーを啜る俺の耳に、同僚の声が届いた。
それは、俺に宛てられたものではない。
別のソファーに腰掛けていた上司に対してのものだ。
例のクラブの経営者と接触を図った次の日から、俺は別件の仕事で地方へ飛んでいた。
俺はしばらく都内には戻れなかったから、クラブの件はこの同僚が後片付けしておくことになった。
あのマスターの借金は全額蜷川組に返済され、奴は俺達の組から借金をする契約を結んだ。今から数週間前の話。
これで一件落着だ。あとは、金が全額返済されるまで気長に付き合っていくしかない。