不可解な恋愛 【完】
「それって、あのクラブの?」
「ああ、龍いたの」
「え、ずっといたけど」
「お前存在薄いよな」
「ほっとけ」
上司が、俺たちの会話を聞いて声高に笑う。
存在が薄いなんて、初めて言われた。
いや、そんなことじゃなくて。
「質問に答えろよ」
「ごめんごめん。そうだよ、あのクラブの経営者の契約書」
「あいつ逃げたの?」
「そ。俺がこれ受け取ったその日に」
「…じゃあ、店は?」
「とっくの昔に潰れてるよ。」
俺は咄嗟に、最初に店の外で杏奈と会ったあの日
押し付けられた連絡先を捨てたことを悔やんでいた。