不可解な恋愛 【完】
彼女は、こんなの早く脱いじゃいなよ、とスーツの裾をちょんと引っ張ったかと思ったら
今度は完全に気を抜いていた俺の、唇に自分の唇を一瞬合わせた。
「ふふ。龍の唇いただきー」
「おそまつさまでした」
「ね、今度は龍から、」
じっと俺の目を見据える奏音。その目をもっとじっと見つめ返す。
俺は一生、嫌いにならないと思う、こいつのこと。
強く強く、情熱的に燃え上がったことはなくても、ゆるくずっと、こいつが好きだ。
嫌いなところなんてひとつもなくて、俺のためにいつも綺麗でいてくれるとこも好き。
「奏音のことも、俺、裏切れないな」
「…なんの話?」
「ひとりごと、」
彼女をぐっと自分に引き寄せて、深く口付ける。
執拗に舌を追う途中、薄く目を開くと、心底心地よさそうに奏音は目を閉じていて。
その表情に、心が満たされていくのがわかる。
触れたい。
この先一緒に居たら、杏奈にもそう感じるようになってしまうんだろうか。
どっちつかず。
結局俺は、中途半端だ。