不可解な恋愛 【完】
その日の夜、杏奈の部屋を訪ねた。
まさかまかり間違って自殺なんかしてなかろうかと、内心ハラハラしていたのだ。
思えばお互いの電話番号もメールアドレスも、何も知らない俺達を繋ぐものは、5000万円以上の借金以外に、ない。
逸る気持ちを抑えつつ、チャイムを鳴らす。
すぐに開くドア。少しやつれた様子の杏奈が、そこに立っていた。
とりあえず、生きていることに安心する。
「死んでなかった?」
『生きてた。生きた心地しなかったけど』
「まぁ…とりあえず、よかったよ」
『神崎さん…会いたかった、』
彼女は俺の右手首を掴むと、俺を玄関の中に引っ張り入れた。
バランスを崩して前につんのめると、杏奈は俺の腹部にぎゅっと腕を回して抱きついた。
背後でぱたんとドアの閉まる音。行き場のない、俺の両の腕。
ためらったけど、その腕で彼女を包んだ。
折れそうなほど細い体と、折れてしまったであろう彼女の心。
少しでも楽にしてやれたら、と思う。