不可解な恋愛 【完】
彼女はやっと俺から離れて、お茶でも入れるね、と言った。
玄関から、真っ白なリビングへ。
今日はテーブルに、ドレスのカタログが置いてあった。
『はい、どーぞ』
「どーも」
『私ね、また働こうと思ってるの』
「…それで、ドレス?」
『うん。今度はもう高級クラブにこだわらないことにしたの、間口広げるために』
「お前、風俗だけはやめとけよ」
『当たり前じゃん。そんな度胸ない』
杏奈はカタログを俺に向けると、このドレスどう思う?と嬉しそうに聞いた。
白地にピンク色の刺繍とハートの形にスパンコールが施してあるドレス。
「…背中開き過ぎだろ」
『えー?普通よ、これくらい』
「それに、スリット入り過ぎ」
『神崎さん固いのねぇ』
「これは?」
『神崎さん、黒が好きなの?』
ぱっと目に止まった、黒い総レースのロングドレス。
スリットもなければ、背中の開きも上品なもの。
杏奈に似合う、と思ったわけじゃなくて、自分の好み。
どちらかというと、いや、確実に、奏音が着たらとてもよく似合うだろう。
やっぱり俺のど真ん中は奏音で、杏奈ではないんだ、と思った。
でも、何でこんなに惹かれているんだろうか、と考える。
恋愛とは、いつだってわからないものだ。