不可解な恋愛 【完】
『神崎さーん』
「…寒いなー、外」
『中、入んなよ』
後ろから杏奈が俺の背中をひとつ叩いた。
首だけちらりとそちらに向けて彼女を見ると、彼女は俺を見上げて小首を傾げている。
じっと見つめているから何かと思ったら、次の瞬間に彼女は大きなくしゃみをした。
俺が大きく吹き出すと、彼女は鼻をすすりながら、笑わないで、と今度は俺の背中をぐーで殴った。
「なあ、デートしよっか」
え?と短く発した杏奈。
天気もいいし、と返す。真っ暗だけど、空は澄んでいる。
約束は守るもんだ。
人に、きっちり金を返せと言っている手前、自分が約束を破るわけにはいかないだろう。
こんなこと言うと、また同僚から「昭和」だと言われるだろうけど。
「杏奈として俺とデートする約束、忘れた?」
『…忘れてないよ!』
「じゃあ、行こ」
杏奈は幸せそうに微笑んで頷くと
もうひとつ、くしゃみをした。