不可解な恋愛 【完】



ゆっくりと芝生を歩く。

冷たい風が肌に刺さるけど、それさえ心地いいくらい、体温が上昇しているのがわかる。

自分らしくない、と思う。一緒にいるだけでこんな青い気持ちになるなんて、と。






『私、借金返済する。せめて、この前別所さんが取りに来た分だけでも』


「…そんな金あんの?」


『安いメルセデス1台買えるくらいの貯金はあるの』


「なんだよ。案外金持ちじゃん」


『まぁね。言ったでしょ、大金が必要って』


「ああ。なんでなの、その、大金って」






しばらく歩いて、木製ベンチに腰掛けた。

ひんやりとした感覚が背中を貫く。

手を繋いだまま、ちょっとだけ肩を寄せる。






『今は、まだ内緒』


「…あっそ」


『でも、そのお金がないと、本当はちょっと困るんだけどね』


「じゃあ使うなよ、借金なんかに」


『いいの。神崎さんにばっかり迷惑かけたくないし』






いつもよりも、杏奈の声が凛と届いた。

空を見上げる彼女の横顔は、暗くてよく見えなかったけど、少しの切なさを含んでいて、途端に胸が苦しくなった。



この感情は

愛か、恋か、情か。



いつだって、わからなくなる。
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