不可解な恋愛 【完】
『神崎さん』
「んー?」
『彼女さんとは、上手くいってるの?』
「ああ、」
ふわふわした世界から、急に現実に引き戻されたような感覚。
最初に「彼女がいる」と伝えたとき、あっけらかんと笑っていた杏奈だったが
本当にその事実を気にしていないのか、奏音のことを聞いてきたことは今まで一度もなかった。
だから、杏奈の口から出た「彼女」という単語に、些か驚く。
上手くいってるよ、と答えると彼女は、ふうんと言って数回頷いた。
それ以外に、何と答える選択肢があっただろう。だってこれが真実だ。
繋いだ手が、ひどく熱を持つ。でも、この手を離したくないのも本当。
杏奈が、こんな俺の感情を理解しているのかいないのかは、わからないけど
彼女もまた、繋いだ指を離そうとはしなかった。
中途半端な感情が、きっと彼女のことを苦しめている。
なんでこんな風にするの?なんて、怒鳴られたっておかしくないのに。
いつも杏奈はただ、幸せそうに微笑んでいるだけだった。
だけど今日は、少し様子が違う。