不可解な恋愛 【完】
「私、龍のこと離さないからね」
玄関でかかとの高いブーツをはきながら、背中を向けたままの奏音が言う。
「俺も離す気ないし」
「ほんっと、自分勝手な男ね」
「わかってて付き合ってんだろ」
「まぁね」
俺がもっと女にルーズで、無茶苦茶やっていた時期も奏音は知っている。
きっと彼女の中には、「私が神崎龍を一途な男にしてやった」くらいの自尊があるのだろう。
確かに全く異存はないけど。
腹を立てているそんな奏音を、ちょっと可愛いと思うあたりが、俺は嫌な奴だ。
本命の彼女に浮気がバレたにも関わらず、開き直っているあたりも、やっぱり嫌な奴。
「本気になっちゃだめよ」
「もう本気だよ、って言ったら?」
「……、」
「お。奏音が黙ったとこ、初めて見たかも」
「なによ。とにかく、どこの女か知らないけど、適当に遊ぶだけにしといてね」
「おー」
「ほんとにわかってんのかしら、この人」
奏音は大きくため息をついて、出て行った。
ばたんとドアの閉まった音を聞いて、やっとソファーから立ちあがる。
女は比べられるのが嫌いだとよく聞くが、やたらと自分と他人を比べる節があると思う。
どっちが一番だとか、二番だとか、どうでもいいじゃん。そんなの。だめなの?
彼女公認浮気。
こうして俺達の、不可解な恋愛が始まった。