不可解な恋愛 【完】
目が覚めたら、黄色い光が部屋に差し込んでいた。
杏奈のシングルベッドは狭すぎて、ふたりで寝るのは不可能だったから
情事の後、くたくたになった彼女をベッドに運んで、自分はソファーで丸くなった。
体を起こすと、床に、自分ではかけたはずのない毛布が落ちた。
ひとつ欠伸をしてそれを拾う。
次の刹那、後ろから後頭部を小突かれた。
振り向くと、杏奈が両手にマグカップを持ってにっこり微笑んでいた。
どうやらマグカップで俺の頭を小突いたらしい。
おはよう、と言いながらそれを受け取ると、彼女も嬉しそうに挨拶をした。
夜中にドライブした夜も、俺は杏奈を家に届けた後すぐに帰ったし
朝を一緒に迎えたのは初めてだった。
いつもこの家に来るのは仕事終わりの夜ばかりだからか
差し込む淡い光に、なんだかくすぐったい気持ちになる。
まだ眠たげな目でお互い向かい合って、コーヒーをすする。
湯気の向こうの杏奈は、昨日よりも綺麗に見えた。
『今日仕事は?』
「午後から」
『そっか。私も今日から出勤なの』
「そうか。頑張れよ」
『ありがとー』
他愛もない会話で、こんなにも世界が色づいて見えるなんて、知らなかった気がする。
刺々しい中に身を置いて生きているからだろうか。
自分にとって、愛を感じる存在はあっても、安らぎに感じる存在はなかったと思う。
自分の中に生まれた新しい感情に、戸惑いながらも、幸せを感じていた。