不可解な恋愛 【完】
『ねぇ。神崎さんって、携帯持ってないの?』
「持ってるけど」
『使わないの?』
「使ってるよ」
『じゃあどうして連絡くれないの』
最初に外で会ったとき、ゴミ箱に捨ててきた名刺を思い出す。
こんな変な女には一生関わりたくないと、あの時思ったんだった。
それがこんなことになるんだから、本当、人生はわからない。
もしかしたら明日急に、芸能界にスカウトされることだってあるわけだし?
しかし、捨てただなんて、杏奈に面と向かって言うことができなかった。
メールとかめんどくさい、とお茶を濁す。
すると彼女は俺の携帯を出せとせがんだ。
『どうせ私の情報なんか入ってないんでしょ』
「え、」
『お見通しだよ。顔見たら嘘なんてすぐわかるわ』
「……、ごめん」
『別にいいんだけどね。情報送信してあげるから、出して、携帯』
「ああ、はい」
こういう部分を見せられた時、女って強い生き物だと感じる。
彼女たちは、男よりもよっぽど丈夫な心持っているだろう。
慣れた様子で二つの携帯を赤外線通信させると、杏奈は満足げに微笑んだ。