不可解な恋愛 【完】
「急に泣きそうになんないで」
『なって、ない、けど?』
「どうしていいか、わかんなくなるから」
『…ごめんね、』
「謝んなよ」
一層腕に力を入れて、首筋に顔を埋めると、杏奈は身を捩って熱く息を吐き出した。
「杏奈の抱えてる心配事とか、全部俺が一緒に持ってやるから」
借金のことなんか、せめて俺と居る時くらいは、忘れさせてやりたかった。
杏奈と時間を共有して、とても和やかな気持ちで満たされている俺だから、杏奈も同じ気持ちにさせてやりたいのだ。
だけど彼女は、たまに、とても悲しい顔をする。
きっとそれは、俺のせいなのだろうけれど。
『神崎さん、ありがと』
「…ん。」
『だけど、いくら神崎さんでもね、きっと全部は持ちきれないよ』
杏奈はそう言うと、目をそっと伏せた。
横顔が、また憂いを帯びる。
借金とは別の何かで、苦しんでいるのだろうか。
なんだか急に、杏奈がわからなくなった。