不可解な恋愛 【完】
『神崎温泉へようこそ、神崎様。だってー!』
部屋に通されるなり、杏奈はそう言って笑った。
旅館の従業員も、最初はちょっと面白おかしそうに、だけどこんな成りの俺が何も言わずにじっと顔を見つめたら
さすがにやばい奴だと思ったのか、口をつぐんだのだった。
ひとしきり笑った後、杏奈はバッグの中からなにやらいろいろと取り出し始める。忙しい女だな。
俺は、窓際に立って外を眺める。すぐ側の海がキラキラと太陽を反射して笑っている。目が眩むほどの光の粒に、尖った心が癒されていくようだ。
3日経てばまた、騒がしい生活に元通りだ。今だけは、全部忘れたい気持ちになる。
その時、ポケットの中で携帯が震えた。
電話に出ると、国東にあるうちの系列の組の幹部からだった。