不可解な恋愛 【完】
「神崎か。例の男の件だけど」
「尻尾掴めました?」
「ああ。やっぱり国東で家族と暮らしてるらしい」
「へー…。俺も今大分にいるんで、こっちの用済ませたら向ってみます」
「そうか。その前に一度事務所に寄ってくれ。地図を渡すよ」
「すみません、何から何まで」
「いや。…それよりお前、今大分のどこに居るんだ」
彼の言葉に、一瞬凍る背筋。
神崎温泉で休暇中でーす、なんて口が裂けても言えない。いろんな意味で。
適当に嘘をつけばいいのだろうが、大分の地理なんて、神崎温泉のある大分市か久住くらいしか、俺は知らない。
仕事と銘打って大分に来たわけだから、久住です!とも言えないだろう。キャンプでもしに来たのかっつーの。遊んでんのバレバレ。
「お、大分市内に…」
「仕事か」
「はあ、まあ、そんなとこで」
「お前も大変だな。地方、地方で」
「そうですね。」
「石田が言ってたよ。お前にはかなり期待してるって」
知ってる。まぁ言っても俺、組織の中の2番手だからね、という高飛車な科白は飲み込むとして
一言、まさか、と笑っておいた。
彼は、お前に謙遜は似合わないと、俺の考えを見抜いているかのように発して笑い、電話を切った。